窒息するオフィス 仕事に強迫されるアメリカ人 | |
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文教系学生の僕にとって、「401K」 「CEO」 「ストックオプション」 などの用語は全く縁遠い存在だったが、その意味を生々しく教えてくれたのが、この 『 窒息するオフィス 仕事に強迫されるアメリカ人 』 という本である。成果主義や派遣社員の導入など、労働条件が日々 “ アメリカナイズド ” されつつある今の日本に生きる者として、アメリカ流の「 柔軟な雇用事情 」 という物の実態が分かった事は大きな収穫だった。以下、この本で知った経営用語の意味を、独断と偏見で、 『悪魔の辞典』 を意識してまとめてみた。
◆ 『 窒息するオフィス 仕事に強迫されるアメリカ人 』 にみる経営用語集
(いいげる編)
- 401K制度
- アメリカ企業界において、目覚しい勢いで普及している年金プランの一つ。低コストで融通が利くと言う点で、従来型の年金よりも好ましい物とされている。当然のことながら、401K制度の下では、事実上、殆んどの世帯で可処分所得が、従来型の確定給付年金制度に比べ減少する。 (※参考:p.78)
- CEO
- 最高経営責任者。「 国内外の競争相手への対処方法はただ一つ。社員に、より懸命に、より長く働かせることである。労働時間の短縮などとんでもない。 」 と考えがちで、「 労働時間の短縮が、企業の業績改善をもたらした例 」 や 「 レイオフや非正社員中心体制への切り替えが、結果的に、以前よりも高コストになった例 」 は目に入らない傾向がある。大規模なレイオフや福利厚生の削減などの対価として“ 役員もたじろぐ ” 天文学的な役員報酬を要求する大企業のCEOの場合、業績を悪化させた時も、通例、その巨額の報酬を貰い続ける。 (※参考:p.214-218, 239-242, 250) ⇒レイオフ
- ノートパソコン、携帯電話などとのコンビネーションで、家庭や旅行先を含む全ての 「 憩いの時間 」 に仕事を侵入させ、「 24/7 」〔 週七日24時間体制 〕 を可能にする悪夢のテクノロジー。不意の、そして断続的な受信により、作業への集中を妨げ、仕事の能率を落とす効果もある。 (※参考:p.84-94)
- going postal 〔 ブチ切れる 〕
- 1986年8月20日、米国オクラホマ州エドモンド市の郵便配達員が上司に 「 もっとよく働かなければ解雇する 」 と脅されたことにムカッときて、同僚14人を殺害した事件からきた言葉。 (※参考:p.35)
- IT化
- 「 Investigator 〔捜査官〕 」 といった従業員監視ソフトの導入で、パソコンのキー操作から通信記録から、従業員の、オフィス内における全ての行動を監視可能にする革命的風潮。オフィスの “ ビッグブラザー ” を多数輩出した、21世紀の “ 鉄の足枷 ” システムの元凶。 (※参考:p.98-101) ⇒e-mail
- M&A
- ⇒合併
- アンドリュー・S・グローヴ氏
- 著書 『 パラノイアだけが生き残る 』 において 『 経営の最も重要な、人びとが市場で勝つことに熱心に打ち込むような環境を作ることである。恐怖はそのような熱心さを作り出し維持するのに大きな役割を果たす。競争の恐怖、破産の恐怖、間違いを犯す恐怖、失業の恐怖は、強力な刺激要因となりうる 』 などと主張し、1990年代のアメリカにおいて、経営の理論家として教祖的地位を獲得。
インテルCEO時代には、解雇には“ 理由が必要 ” であった雇用契約の変更、従業員の “ 回転率 ” 向上による若年労働者中心体制の確立、“ R&R ”という社員査定システム導入による社員間のチームワークの破壊、大規模な雇用削減などを実現。市場アナリストから高い評価を得、同時に 「 氏はユダヤ人だから協調を信じない。 」 などの人種差別的偏見も獲得。 (※参考:p.173-183) ⇒恐怖 ⇒若年労働者 - いじめ
- 日常的な嫌がらせ、虐待、騙し合い、集中攻撃、単純な権利の否定、その他の不当な扱いを駆使し、同僚を蹴落とすサヴァイバル戦略。現代的な職場環境から十分に教訓を学び、会社のする事を真似する 「 便乗主義的いじめ 」 が特に効果が高く、成功すれば、陰口や政治的駆け引きが “ 信じられないほど非道い ” 職場における、自分のポストを維持するができる。主な原動力は 「 恐怖 」。 (※参考:p.33-35) ⇒恐怖 ⇒going postal
- インターネット
- 会社に対する鬱憤の捌け口や仲間意識醸成の場であると共に、「 今や誰にとっても仕事は辛いものになった 」 という暗黙のメッセージを送ることで、多くのホワイトカラーから、企業の過剰な要求に立ち向かう気力を奪う存在。ホワイトカラー “ 搾取工場 ” 化の一助となっている可能性がある。 (※参考:p.101)
- 合併
- 企業を、比較的小規模でフレキシブルな体制から、官僚的な巨大組織へと移行させ、最終的には “ 大きすぎて潰せない ” ほとんど法を超えた存在にまで高める方法。大抵、大規模なレイオフと福利厚生の大幅削減が伴う。規模の拡大に比例して、組織の抱える問題も巨大化する場合が多い。 (※参考:p.199-200, 203) ⇒レイオフ
- インテル契約社員
- ⇒契約社員
- 企業内セミナー
- 会社の過酷な変化の必要性とその利点について、現在の社員に対し再教育を行う事を目的として行われる。ニューエイジ的手法 〔 精神世界を大切にする考え方 〕 を強引な説得攻勢に結びつけるのが一般的。たいていの場合、社員を極度の自己嫌悪状態にする事に成功するため、後に控える “ 首切り ” という “ 過酷な変化 ” を社員が受け入れる体勢を作る上で大変有効である。 (※参考:p.37-38)
- キュービクル
- アメリカのオフィスなどで見られる、パーテーションで区切られた個室。「 不断の監視を続ける装置 」 として機能する。 “ 自在に組み立てられ、動かされ、形を変えられる ” というキュービクルの儚さは、ホワイトカラーが “ 自分たちが簡単に取り替えられてしまう ” 存在であることの自覚を促し、それをもってオフィスの生産性向上に寄与している。 (※参考:p.219-224) ⇒恐怖
- 恐怖
- 常に失業者や不完全就業者が大勢いる社会において、相場以上の賃金を支払うのと同程度の 「 協力 」 「 献身 」 「 努力 」 を社員から引き出すことができる刺激。この刺激を利用した企業群は、いとも簡単、且つ劇的に、賃金を20%から40%も下げてしまうが、社員は不平を口にしても辞めはしないため、総じて高い利益をあげる傾向にある。 (※参考:p.48) ⇒レイオフ ⇒アンドリュー・S・グローヴ氏
- 記念品
- 従業員へ何らかの記念品を配る場合は、コアステイツ・フィナンシャルのように『 使い捨てカメラ 』 を与えたり、 「 幸運を祈ります。よく考え、選択の機会を生かして、楽しんでください。妥協はしないでください。あなた自身があなたの持っているすべてなのです。 」 といったメッセージを添付すると効果的。 (※参考:p.193) ⇒恐怖
- クラッシュ
- 1). コンピュータが突然動かなくなること。フリーズ。
2). オフィスに座ってコンピュータを見つめ、動くことができず、何も聞こえなくなること。強力な抗鬱剤である 「 プロザック 」 などで緩和される。 (※参考:p.181) - 契約社員
- 「 正社員 」と 「 派遣社員 」 の中間に位置する奴隷階級。殆んど「 派遣社員 」 と同じ立場だが、「 正社員 」 や 「 ストックオプション 」 という飴に 「 派遣社員 」 以上に躍らせられやすい上、時にプレッシャーも「 派遣社員 」 以上。 (※参考:p.169-170) ⇒派遣社員 ⇒ストックオプション
- 携帯電話
- サンディ・ワイル氏
- シティ・バンクCEOの際、大規模レイオフと銀行員の福利厚生削減を成功させ、見事、ヴードゥー教の呪いの対象となる。 (※参考:p.216)
- 社会ダーウィニズム
- ⇒ダーウィン主義的職場観
- 若年労働者
- 最新の技術を身に付けながら低い給料しか要求せず、経営者にとっては気兼ねなく、長時間労働や医療的給付の削減を求められる存在。特にシリコンバレーやウォール街でその割合が高い。 (※参考:p.46)
- ジャック・ウェルチ氏
- 1980年代のゼネラル・エレクトリック社長。企業が、情け容赦なくいっそうの経営効率を追求する運動を展開する限り、レモンから “ 無限のジュース ” を搾り取る事が出来る、という考えを広めた。 「 菜種と百姓は絞れば絞るほど取れる 」 という、日本では豊臣秀吉の時代からメジャーだった考え方が、何故この時期に、アメリカのCEOたちのハートを掴んだかは不明。 (※参考:p.43)
- ストックオプション
- 上司がそれを与えると “ 臭わせる ” だけで、例えその約束が何度も何度も、極めて不明瞭な理由で延期されようとも、労働者を厳しい労働環境に耐えさせるに十分な動機付けとなってしまう、IT企業が持つ究極の飴。時に 「 恐怖 」 以上の高い効果を発揮する。 (※参考:p.166 - 170) ⇒恐怖
- ダーウィン主義的職場観
- 個人のキャリアが成功するか失敗するかは、会社の生き残りをかけた本能的な冒険によって形成され、その本能的冒険とは、どんな種の生き残りとも同じように、全く自然であって、道徳の及ばないものである、と見なす考え方。この考えの下では、例えば経営者は 「 ビジネスに適した遺伝子を持ち、企業の進化論的な力によって選り抜かれた者 」 といったように定義される。本家の進化論は近年、その科学的妥当性を疑問視されつつあるにも拘らず、この労働現場における “ 適者生存 ” モデルは、アンドリュー・S・グローヴ氏や 『ミーン・ビジネス』 の著者ダンラップ氏などの成功している経営者、そして金持ちの投資家の間で根強い人気を誇る。 (※参考:p.212 - 214) ⇒アンドリュー・S・グローヴ氏
- 忠誠心
- 死んだ。 (※参考:p.232)
- 長期の雇用保障
- 永遠に実現しそうにない夢物語。 (※参考:p.110 - 116)
- ノートパソコン
- 派遣社員
- 近年、勃興してきた新しい奴隷階級。結果的に、正社員よりもコストがかかってしまう場合があるが、正社員の不満の捌け口 & 「 恐怖 」 という刺激の源として効率的に機能。 (※参考:p.53 - 62, 106, 250) ⇒恐怖
- ホワイトカラー
- ブルーカラーと違い 「 嫌なら NO と言えばいい 」 自由がある、と勘違いされている場合もあるが、結局、何時間であろうと与えられた仕事をこなすのに必要なだけ、働かざるを得ない状況に追い込まれる被搾取階級。 (※参考:p.23 - 25)
- リエンジニアリング
- 社員の報酬を削減する経営戦略を、正当化する哲学。「 仕事が “ 再定義 ” され、仕事量が増えても給料が減らされても、レイオフに怯えた社員は文句を言わなくなる。 」 という考え方。この運動の創始者であるマネジメントコンサルティングの教祖:ミシェル・ハマー氏は、後に 「 人間的な面についての認識が足りなかった 」 と告白し、逃げの一手を打っている。
なお、リエンジニアリング運動を行った後の企業では 「 残っている社員が皆、はるか遠くに視線を向けて歩き回っている 」 という現象が見られることもある。 (※参考:p.45, 204 -205) ⇒レイオフ ⇒恐怖 - リストラチャネリング
- 不振にあえぐ企業を捉えている、あまりに見え見えのサイクル。「 四半期の結果を注意深く観察して、長期のビジネスの必要ではなく、短期の金融的動向に従って雇用のゲートを開いたり閉じたり 」 した結果として、職場の荒廃、利幅の減少、株価の低迷などを招いてしまった際に、「 この戦略はいつの日か成功するかも知れない 」 という希望を抱いて同じ事を繰り返し、経営基盤を失い続けること。 (※参考:p.206 -207)
- 臨時社員
- ⇒契約社員
- レイオフ
- 首切り。通例、大規模に行われる。不十分な業績を自分たち以外の誰かのせいにしたい経営者が選択する、最初のオプションであり、通常のビジネスの一部であるという見方が大企業では一般的。実行した後 「 リストラチャネリング 」 に陥ることがある。
なお、マイケル・ムーア著 『 アホの壁 in USA 』 p.333 には、「 レイオフ 」 とほぼ同様の意味で使われる言葉として、「 Downsized (規模縮小) 」、「 Rightsized (規模適正化) 」、「 Degrown (逆成長化) 」、「 Dehired (雇用中断) 」、「 Involuntarily separated (不本意離職) 」、「 Personnel surplus reduction (人員余剰削減) 」、「 Transitioned (人員移動) 」、「 Resource reallocation (資産再配置) 」、「 A save (節減) 」、「 Displaced (解職) 」、「 Dislocated (配置転換) 」、「 Disemployed (失業) 」、「 Redundancy elimination (余剰労働力削除) 」、「 Workforce imbalance correction (労働力不均衡是正) 」、「 Fired (クビ) 」 などが挙げられている。 (※参考:p.248) ⇒リストラチャネリング - レクサス
- 1999年当時 「 もちろん、休みはとりますよ。昼休みという休みをね。しかし、会社にソフトボールチームはありません。あれば生産性が 0.56% 下がってしまうからです 」 という文面の広告を、『 ウォールストリート・ジャーナル 』 紙や 『 ニューヨーカー 』 誌などの出版物に出していた、トヨタの勝ち組み向け欠陥車種ブランド。 (※参考:p.22, 注p.12)
- レモン
- “ 無限のジュース ” を搾り取るために存在する物。 (※参考:p.43) ⇒ジャック・ウェルチ氏
- 労働時間
- 多くの経営者が 「 増え続けてしかるべき 」 と考えている物。アメリカでは、“ アウトサイダー ” 意識を持ち続けた社員が、例外的に、のべつ幕なしの労働時間増大を回避した例がある。 (※参考:p.239-242, 254) ⇒CEO
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