雨の日は C.J. Bolland の 『Electronic Highway』 だろう、と先ほど聞いてみたが、さっぱり合わなかった。やはりこのアルバムは、秋雨、特に、紅葉が終わりかけの、冷たい雨が降る日がよく似合う。ということで、季節外れではあるが、今回は、このテクノの名盤を、ちょっとレビューしてみたい。(※なお、以前 「梅雨どきの音楽」 という記事で、この時期にハマりそうな曲を挙げてみたので、興味のある方はそちらもどうぞ。)このCDは、本当に 「色」 が無い。白に近い灰色か黒に近い灰色か、そんな色をした音ばかりで、たまーに 「色」 のついた音が混じる。クール、荒涼。金属的かつ幽玄な音の連鎖が、リスナーを、灰色に煙る雨雲の向こうへ、静かに吹き飛ばしてしまう。
アルバム全体が、あたかも1つの曲のよう。全体として纏まっているのではなく、ほぼ全曲、同じ匂い、同じ色彩なのだ。色んな明度の灰色、黒から白へ向けてのグラデーション。その中に時節、強烈な彩度を持った音が横切り、そして見えなくなる。
その単調な構成の割には、色々な表情を見せる。1人静かに、奈良の仏像でも見て回っているような感じか。全部同じように見えて、全部違う。恐ろしいまでの、平板にして立体的なバリエーション。
はっきり言って、このCDのジャケットは本当に良くできている。極めて忠実に、音楽の中身を平面画像にトレースしているのだ。私の拙い言葉の集合なんかよりも、このCDのジャケ絵のほうがよほど、雄弁に、今作の内容を物語っている。掛け値なく 「このアルバムは、このジャケットの通りである」 と言える。
これは、youtube で見つけたこのアルバムの1曲目だが、暖色系の絵画が、寒々としたこの曲と全く合っていないことがよく分かる。
私のコレクションはたかだか1000枚ほどだが、音とジャケットが、これほど静かに寄り添ってシンクロしているCDはかなり珍しい。
Discog によれば、このCDが世に出たのは1995年。なんと16年も前だ。『Genre: Electronic Style:Breakbeat, Techno, Drum n Bass, Electro』 と、Discog の表記も混乱気味(?)だ。16年たった今でも、この音楽が色褪せていないのは言うまでも無い。(「色彩」が「無い」にもかかわらず)
C.J. の音楽は、なんと言ったらいいのだろう。若気の至りに身を任せ、「色」をごたごたと突っ込んで大変なことになってしまった1stアルバム 『The 4th Sign』 には、Rave Hardcore という、ごった煮サウンドを放り込んでおくに相応しいジャンル名(レッテル)があった。上手になって、かえって悲惨なことになってしまった3rdアルバムにはここでは言及しまい。
静かに荒んでいるリズム隊の上に、感傷的なリフがそっと顔を出す繊細さ。このアルバムは 「結果的にトランスになってしまったメロティアス・テクノ」 でいいのかな。こんな言葉しか出てこない自分が恥ずかしい。色んなジャンルのファンを唸らせ、しかし、C.J. の音は C.J. の音。
行け行けドンドンの1st、そして、一転して感傷的なこの2ndアルバムの立ち位置そのものが、偶然の産物というか、得がたいものであったのだろう。それが、あの低レベルな3rdアルバムの商業的成功によって明らかとなってしまったことに、個人的に、どこか皮肉めいたものを感じてしまう。
淡々と流れるテクノアルバムであるにも関わらず、この 『Electronic Highway』 は、高速道路よりも、むしろワインディングによく似合う。例えば、本作より泥臭いハズの Underworld 『Beaucoup Fish』 が、冷房をガチッと効かせた高速道路走行中や新幹線といった、より無機質な環境でハマるのとはえらい違いである。これが空の旅路となると、Chicane の 『Behind the Sun』 とかになるのだろうか。そのまんまだが。Sasha の 『Airdrawndagger』 も、とも思ったが、これはむしろ夜の首都高か!? 全然合わなかったりして(ま、静かに走りたいときにでも)。
前職時代の、数えるほどしかない休日。仕事のストレスで苛立ち、バッテリー上がり防止も兼ねて、思わず、雨の峠道に飛び出した日を思い出す(勤務地が近所だっため、通勤には自転車を利用していた)。せっかく、ちょっと車を走らせればすぐさま、燃えるような紅葉に包まれる田舎に住んでいるのに、あいにくの大雨で、全てが灰色、灰色、灰色。それでも、山々の木々は、舗装し直したばかりのアスファルトは、色んな顔、色んな表情を見せようとし、見せてくれる。
その日、出発間際にたまたま手に取ったのが、アマゾンで買ったばかりのこのCD。荒涼とした色彩、寒々とした情景、そして、単調にして複雑な造形が、あの日の灰色に濡れた峠道と、震えるほどマッチしていた。そして、私の心的風景と…。
以下、曲別の寸評。
- 1. The Tower Of Naphtali
- 上に動画で挙げた曲。アルバムのリーダー・トラックにして、一番メロディアス。鋭角的にして甘く、切ない。背後に広がる荒野。
ナフタリについては言及を避ける。 - 2. Con Spirito
- 黒っぽい灰色と渦と、白っぽい灰色の渦。バスドラやスネアはいいとして、“金色に鳴るハズ” のハット他金物系までも、モノクロの音がしているのはどういうわけか。ファミコンのザーザーノイズじゃないんだから。
しかし、この曲の名前が「元気に、生き生きと(演奏せよ)」 という意味だったとは。 - 3. Nec Plus Ultra
- 鬱蒼とした緑の木々の間を、淡々と通り過ぎていく。行く果ては何処。
- 4. Zenith
- 寒々としたストリングスの風が吹き、同じ色をした矩形波の雨が降りしきる。ふと顔を出した太陽の、なんといとおしいことか。
アルバムいち、スリリングな曲。 - 5. Bones
- (黒人音楽的、という意味ではなく、音の「色」が)黒く、妙にノリがいい曲。
代わり映えしない曲しか作れなかったのか、同じテーマで自分を追い込んでいるのか。 - 6. Catharsis
- 同じテーマ、同じ色彩で、ついにメロディを捨ててミニマルに。
正直、同じ料理がここまで続くと…。私は、この曲は飛ばしている。 - 7. Spoof (Remix)
- 「まだまだこの調子で行くのかよ。勘弁してくれ」 というリスナーの悲痛な叫びを、1分後に救いにくるオルガン。でもやっぱり、音が白黒なんだ。
Remix を名乗るだけ合って、色々しようとした形跡はあるのだが、単に散漫なだけのような。この曲もパスかな。 - 8. Neural Paradox
- やった、やっと色がついている。灰色の紙に引いた黄緑の蛍光マーカーみたいな色だが、これで安心して聞け……無いってのはどういうことだ!?
1stアルバムの 「Camargue」 が、それまでの雰囲気をイントロの出音一発でパッと切り替えてしまうのに対し、この曲はジワジワ系。せっかく色がついている、叙情的なトランスだっていうのに、出だしから中盤までのパッとしない感じは、まるでドフロ先輩を髣髴とさせるタルさ。ドフロ先輩のように、その鬱憤を後で爆発させてくれるわけでもなし。
シングルカットされた曲だけあって、単体で聞くと良いんだけど、アルバムを通して聞いていると、けっこうツライかも。
もしかして、本作は欠陥アルバムなのか? 当時、C.J. はレコード会社と色々あったようだし。
余談だが、あの荒んだ(笑)1stアルバムをずっと聞き通してきて、終盤に 「Camargue」 に出会ったときのあの嬉しさ。まさに地獄に仏。あの旋律が、神々しいまでに美しく感じられる。 - 9. Drum Tower
- ここへ来て、ちょっと捻ってきたかな、という感じ。今まで、良くも悪くも流れるように曲が続いてきたが、この曲はどこか、引っかかるような感触がある。
だいたい、この曲が流れ出す頃には 「次はどのCDを流すか」 を考えているので、実は、ちゃんと聞いたことが今まで殆んど無い。
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