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言葉が死んでいる“言霊の幸ふ国”
広辞苑第五版で「言霊(ことだま)」という言葉を引くと『言葉に宿っている不思議な霊威。古代、その力が働いて言葉どおりの事象がもたらされると信じられた。』との説明がある。“言霊の幸ふ国”つまり『言霊の霊妙な働きによって幸福をもたらす国(広辞苑第五版)』とはもちろん日本のことである。鎌倉時代の、念仏を唱えるだけで誰もが極楽浄土に行けると説いた法然の浄土宗や、題目を唱えていれば女性でも救われるとした日蓮宗の流行から、至る所に掲げてある「スピードは控え目に」といったような交通標語に至るまで、日本人の言霊信仰は、信仰だと気付かれないほど、広く日常生活に溶け込んで、今も生き続けている。

そんな言霊信仰の国:日本だが、一方で、言葉の持つ力は実に弱い。この国の慣用句のひとつに「言わぬが花」というものがある。『はっきり言わない方が味がある、さしさわりがない、の意。(広辞苑第五版)』つまり、「物言えば唇寒し秋の空(松尾芭蕉)」であり、この国では、腹の中にある言葉は、面と向かって口から出してはいけないのだ。考えようによっては「言葉は霊力を持つので、うかつに口に出してはいけない」という、言霊信仰の根強さの裏返しと解釈することも出来るが、いずれにせよ、コミュニケーション・ツールという面では、言葉というのは「場の雰囲気」「ノリ」「勢い」といったものに比べると、相対的に弱いと言わざるを得ない。

(※ 日本人の大部分は、果たして、言語を用いて他者へ伝えなければならない“一個人としての意思”を持っているのか、そして、それを生み出す土台である“個人”というものを確立していると言えるのか、という問題が先ずあるが、“Identity”という概念そのものが、日本語に適切な訳語を持たない(その意味を一語で表せる日本語が無い)、従って日本にはもともと存在しなかった思考形式であるので、ここでは不問にする。 )

言語によるコミュニケーションが絶対的な優位性を持つ西欧諸国に対し、非言語コミュニケーションが優位に立っている日本では、社会生活においては“阿吽の呼吸”と呼ばれたりもするような、言葉を使わずに相手と意思を交わす能力が“暗黙のうちに”求められる。故に、小さい頃から非言語コミュニケーション・スキルを鍛えられているので、カウンセリングの臨床現場では、日本人は西欧人と違い、言語に拠らず、暗黙のうちにクライアントを“包み込み”関係性を構築する、という力を、何の訓練もなしに自然に発揮しするので、河合隼雄さんなんかは米国やスイスで驚かれたり「カウンセリングにおいて天賦の才能がある」と言われたりしたそうだが、裏を返せば、それだけ、言語によるコミュニケーションが意味を持たないということである。(たまには僕のように、非言語コミュニケーション・スキル獲得に失敗している日本人もいますが(^^;)

この、日本社会における言語によるコミュニケーションの非力さを僕が痛感したのは、ツインタワーに飛行機が突っ込んだちょっと後に、“貧食”と呼ばれる学食で、友人らと、既にその年の4月1日から施行されていた、厳罰化された少年法について話し合った時だ。

その場に居合わせた人は皆、厳罰化に賛成で、反対なのは僕一人だった。僕は、厳罰化は効果が無いという調査報告がアメリカで出ていることを引き合いに出して、「厳罰化が少年犯罪の抑止に効果がある、という科学的根拠はどこに在るんだ!」という論を展開した。これに対する友人らの反論は、「やってみなくては分からない」というもので、「アメリカでは、厳罰化は逆効果という調査報告もある」と僕が言っても、「それはアメリカの話でしょ」といなされ、「何もしないよりはよっぽど良い」と根拠もなく力説され、ついぞ、彼らの厳罰化賛同の意向は動かなかった。

(※ すぐ感情的になってしまう僕が、初めからケンカ腰で臨んだ、という、致命的に稚拙で非建設的な僕の弁論態度には敢えて目をつぶってます(^^; 今にして思えば、最後まで僕の話に付き合ってくれた彼らに感謝しなくてはなりませんね。 )

この場合、「やってみなくては分からない」という言葉が表しているのは、「やったら必ず上手くいく♪」という、絶対的、盲目的な思い込みだ。例えば、農作物の残留農薬が問題になっている時に、「そんなの、やってみなくちゃ分からないだろ!」とか言ってパラチオン溶液を一気飲みするヤツはいない。「やってみなくては分からない」という言葉が発せられた時には、大体において、「やったら必ず上手くいく♪」という“根拠のない自信”か、若しくは、「やったら必ず上手くいって欲しい」という切迫した願望がる。つまり、「やってみなくては分からない」という言葉は、字面通りに解釈すれば極めて経験科学的であるものの、と言うよりもむしろそのために、その言葉を発した者は、自分の頑迷な思い込みに気が付かないのである。

そして、この「それはアメリカの話でしょ」という言葉。これも、字面通りに解釈すれば、真に科学的、非難の余地は見当たらない。だが、なぜ、この一言で、アメリカでの(有効性については分からないが、一応)科学的な手法によってなされた調査報告を一蹴することができるのか。日本は戦後、憲法を初め、積極的にアメリカ製の文化を受け入れて、東洋では一位、二位を争うほどアメリカナイズされてきたというのに、なぜ、その国で実際に起こったことを、こう軽々しく無視できるのか。それは、この「それはアメリカの話でしょ」という言葉の裏に、「日本人はアメリカ人とは違うから上手くいくよ♪」という日本人はアメリカ人よりも優れている、という奢りがあるからだ。

(※ いや、確かに、僕も日本人は優秀と思うし、自分が日本人であることを誇りに思っている。しかし、つい5,60年前、その優秀さを過信し、物質的な劣勢は精神論で克服できる、という余りに滑稽で致命的な、非科学的極まりない勘違いを犯し、そのアメリカに無条件降伏をした挙句、占領までされたのはどこの国だ!?誇りに思うことは素晴らしいが、世の中で自分だけが優れていると思う、身の程をわきまえない(僕のような?)人間はただのバカ者である。 )

「何もしないよりはよっぽど良い」という言葉の馬鹿馬鹿しさに至っては、もう、説明するまでもない程自明のことと思えるが、そう思うのはお前だけ、という突っ込みを以前に喰らったことがあるので、一応、僕の考えを記す。アメリカでの報告書では、厳罰化が返って犯罪を増やす可能性にも言及されていたが、少年法の厳罰化後に、仮に実際に少年犯罪が増加してしまったとしたら、明らかに、何もしないよりも悪くなっているではないか。「何もしないよりはよっぽど良い」という言葉から得られるものは、「自分はただ手をこまねいて見ていただけじゃないんだ。ちゃんと対策したんだ。だから悪くないんだ!」という、全くもって現状の改善には役に立たない、単なる自己満足だけである。

自分の、科学的なデータを元にした少年法の厳罰化反対論が、「やってみなくちゃ分からない」という無責任な思い込み、「それはアメリカの話でしょ」という危険なおごり高ぶり、そして、どこまでも自己満足にしか過ぎない「何もしないよりはよっぽど良い」という、大変非科学的、感情的な思考によって導き出された言葉によって一蹴されたのが、当時の僕には大変ショックで、その後僕は、ことあるごとに、いろんな人に、この少年法の議論をふっかけてみた。そうしたところ、会う人会う人皆の口から「やってみなくちゃ分からない」「日本はアメリカと違う」「何もやらなきゃ何も始まらない」などの、かつて自分が“貧食”で喰らったのと同類の、非科学的で論理的根拠の無い話が聞かれ、しかも、それを口にする人がほぼ例外なく、絶対的な自信に満ち溢れ、余裕綽々な態度をとって微動だにしなかったので、僕は更なるショックを受けた。僕が、「あなたの言っていることには根拠がないじゃないか」と切り返すと、半分以上の人が『お前は何を言っているのか分からない』という表情をし、ある人は「そんなんじゃ話にならない」と不満を顕わにし、ある人は「もっと大人になりなさい」と僕にせせら笑いを浴びせ、またある人は「朝日新聞なんか読んでるからアカになるんだヨ」とからかった。(自分は自民党ハト派支持者だ。失敬な!)

ここは、本当に文明国なのだろうか。皆、その場の雰囲気や、原理主義的な思い込みだけで、物事を判断している。全く言葉が通じない。結論は最初から決まっている。議論の余地は、無い。というか、僕の話し方が(略)

そうして僕は、徹底的に落ち込むことになった。(翌年、父の勧めで「バカの壁」を読んだところ、このときの記憶が蘇って目頭が熱くなった。)

少年法が改正され、厳罰化が実施に移されて今年で4年目になるが、少年犯罪の推移が気になって、先日、警察庁の統計資料を調べてみたところ、凶悪犯や触法少年の数などは横ばい、若しくは減少傾向にあるのだが、なんと、二年ほど減少傾向にあった刑法犯少年の数が、厳罰化導入後の平成13年以降は一転して増加しているのだ。更には、不良行為少年の補導人数も、子どもの総数は減っていっているにも関わらず、厳罰化の導入後も年々増え続けている。

僕は、「厳罰化が少年犯罪の増加を招いた」という気は毛頭ない。たまたま、風が吹けば桶屋が儲かる的に、厳罰化と犯罪者数が増加に転じた期間がシンクロしただけかも知れない。現に、覚せい剤の乱用は減ってきている。(その代わり、大麻乱用少年の数は厳罰化された年に急上昇しているが。)「何もしないよりはよっぽど良い」と繰り返し、「大人が毅然とした態度を取ることが犯罪を抑制する」と力強く語ってくれた友人は、「厳罰化したというアピールが足りず、少年達の認知度が低いからだ」とか、「厳罰化したことが忘れられてきたからだ」とかいう解釈をするかも知れないが、いずれにせよ、厳罰化後、刑法犯少年の総数が増えた
という事実は消えない。

(※ 自分もSPSSなどを使ったことがあり、統計というのは、実施方法によって結果がいかようにでも結果が変わってしまうが、少年法改正後に調査方法が変ってはいないので、結果は信用できる判断した。 )

「厳罰化すれば、少年犯罪は減少する」というロジックは大変シンプルで分かり易い。しかし、この統計結果からは、厳罰化による犯罪抑止効果は見られない。つまり、

「単純明快な論理=真実」

とは限らない
のだ。

「CCCDを導入すれば、不正コピーは無くなる」、「海外盤CDを輸入禁止にすれば、海賊版は無くなる」、「Winnyの開発者を捕まえれば、著作権侵害行為」…。これらはいずれも、「厳罰化すれば、少年犯罪は減少する」という幻想に負けるとも劣らないほど、単純で、分かり易いロジックだ。しかし、例えば「外国人を排斥すれば、失業問題は解決する」という、大変分かり易く甘美な、一見したところちゃんと筋が通っているような主張であっても、一呼吸置いて考えれば、「自分達が職に就いて当然」と考え、高額の給料を要求する同胞よりも、少ない給料でも不平を言わず、解雇を恐れる余り一生懸命に働いてくれる移民の方が、雇用主にとってはありがたい存在であることは明らかである。失業問題においては、雇用条件の改善、移民の地位向上と不法移民の国外退去措置、そしてなにより、行政側に産業育成や景気浮揚策を求めるべきであり、仮に外国人を排斥しても、それによって自動的に邦人の雇用が増えるわけではない。場合によっては、企業側は生産から管理部門に至るまで、国内の高コスト体質を嫌って海外に拠点を移すかもしれず、そうなってしまっては、現状はより悪化するのである。将来のために必要なのは、自分達の先入観に沿った甘言に踊ることではなく、

現実を直視すること

なのではないだろうか。


…とまあ、今日も自己満足な日記を書いてしまいました(^^;

今日のBGM♪ Nav Katze Lilac moon light Remixed by Disjacta
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